誰でも「なりたい声」は持っている
「私、声が小さくて」 「電話だと聞き返されるんです」 「人前で話すと、喉が締まって続かない」
そんなふうに、自分の声をそっと諦めてしまった人に、まず伝えたいことがあります。
あなたの声は、ダメなんかじゃありません。ただ、本来の出し方を、まだ知らないだけです。
あなただけの宝物を、誰も教えてくれなかった
声は、生まれ持った、その人だけの宝物です。
指紋がひとつとして同じでないように、声もまた、世界にひとつ。あなたが「あ」と発したその響きは、ほかの誰にも出せません。これほど特別なものを、わたしたちは生まれた瞬間から持っています。
でも、考えてみてください。
歩き方や箸の持ち方は習ったのに、声の出し方を教わった記憶って、ありますか。
ほとんどの人が、習わないまま大人になります。だから、なんとなくの自己流で声を出し続けています。喉だけに力を入れて、無理に張り上げて。
その自己流が、少しずつあなたを苦しめます。
通らない。届かない。すぐ疲れる。緊張すると揺れる。状況によって乱れて、安定しない。
そうやって何度もつまずくうちに、こう思い込んでしまうんです。「やっぱり私は、声がダメなんだ」と。
ちがいます。ダメなのは声ではなくて、誰も出し方を教えてくれなかった、それだけのこと。宝物を手にしたまま、開け方を知らずにいただけなんです。
声は喉から出るのではない
ここで、ひとつだけ思い込みを手放してみてください。
声は、喉から出るもの。多くの人がそう信じています。だから喉に力を込めて、喉だけでなんとかしようとする。けれど、喉だけで出した声は、細くて、硬くて、すぐに枯れます。無理をしているのだから、当然です。
本来、声は全身を使って放たれるものです。
足の裏で大地を踏みしめ、お腹で息を支え、胸で響かせ、その人の心が乗って、はじめて外へ放たれます。喉は、その通り道のひとつにすぎません。
つまり声は、その人の心と体、まるごとのエネルギーです。
声はエネルギー。わたしがいちばん大切にしている言葉です。
だから、よく通る声の人は、声帯が特別なのではありません。全身を使えているだけ。エネルギーが、ちゃんと声に乗っているだけなんです。
そしてうれしいことに、これは才能ではなく、誰でも取り戻せる感覚です。生まれたばかりの赤ちゃんを思い出してみてください。あんなに小さな体で、全身を震わせて、何時間でも泣き続けます。喉なんて枯らさない。あれが、人間が本来持っている声の力です。
あなたも、ちゃんと持っています。ただ、大人になる途中で、使い方を少し忘れてしまっただけ。
なりたい声は、もうあなたの中にある
体験レッスンをしていると、いつも不思議なことが起きます。
レッスンの前に、まず聞くんです。「どんな声になりたいですか」と。やわらかい声、よく通る声、落ち着いた声。みなさん、思い思いの「なりたい声」を教えてくれます。
そして正しい発声でレッスンをしていく。すると、たった20分ほどで、その人の声が変わります。
さっき「こうなりたい」と言っていた、まさにその声に。
最初は、ご本人がいちばん驚きます。「これ、私の声ですか」と。新しい声をどこかから足したわけではありません。眠っていた声を、正しい出し方で起こしただけ。
つまり、あなたが思い描く「いい声」は、新しく手に入れるものではないんです。もう、あなたの中にあります。なりたい声は、なれる声。だって、最初から持っているのですから。
あなたのすべてが声にあらわれる
声には、もうひとつ不思議な性質があります。
声は、ごまかせません。
あなたの生き方も、あり方も、その日の心境も、体の状態も。すべてが、そのまま声にあらわれます。落ち込んだ朝の「おはよう」は、どんなに明るく言おうとしても、どこか沈んでいる。心が弾んだ日の声は、自然と上がっていく。声は、その人のいまを、正直に映す鏡なんです。
だから、声だけを取りつくろうことはできません。
でも、これは裏を返せば、希望の話でもあります。
心が整っていれば、声は整う。そして声が整えば、自然と心も整っていきます。声と心は、一本の糸でつながっているからです。
鼻からすって、口からゆっくり吐く。そうやって深く息をめぐらせて、体をゆるめて、まっすぐに声を出す。声がほどけていくと、不思議と、心のこわばりまでほどけていきます。
声からアプローチして、心をゆるめる。これは、わたしが何度も目にしてきた変化です。
今日から、声と仲直りする小さな一歩
本格的な発声練習は、レッスンでじっくり一緒に取り組んでいきます。その前に、今夜ひとりでできる、ちいさなことから始めてみましょう。
まず、ためしに肩を一度ぐっと上げて、ストンと落としてみてください。
力を抜いた、その状態が、声の出発点です。声が出ないとき、わたしたちは知らないうちに肩や喉に力を入れています。まずはそこをゆるめる。それだけで、息の通り道が変わります。
次に、片手をそっとお腹にあてて、ゆっくり長く息を吐いてみてください。
お腹がへこんでいく感覚があれば、それで十分。その息に小さく「はぁ」と声を乗せる。喉で押し出すのではなく、お腹の息に運んでもらう。この感覚が、全身で出す声の入り口です。
そして何より、自分の声を否定するのを、今日でやめてみませんか。
「私は声がダメ」という思い込みこそが、いちばん喉を締めつけます。心が縮こまると、体も縮こまる。声はエネルギーだから、あなたの気持ちにそのまま正直なんです。
だからまず、嫌わない。責めない。「まだ出し方を知らないだけ」と、自分に言ってあげてください。
あなたの声には、あなたにしか出せない力がある
緊張で声が震えた日も。聞き返されて、小さくなった日も。それは、あなたの声がダメだった証拠ではありません。本来の声に、まだ出会えていなかっただけです。
声は、心と体のエネルギーそのもの。
正しい出し方で、本来の自分らしい、いちばんとっておきの声で伝える。そのとき、あなたの中で何かがほどけます。自分らしさが解放されて、心が解放されて、言葉がまっすぐ相手の胸に届く。それが、本当の意味で「伝わる自分」になるということです。
伝わる。つながる。そして何より、あなた自身が、自分の声をすこし好きになれます。
声のcampusは、その出し方を一緒に取り戻していく場所です。一人で頑張らなくて大丈夫。あなたの宝物を、ここで一緒に解き放っていきましょう。
まずは今夜、肩をストンと落として、ひとつ深い息を吐くことから。あなたの声は、きっとここから変わっていきます。